浅
浅音さん (8os5atew)2023/7/19 21:22 (No.67012)削除『白藍、誕生日おめでとう!』
『……え、』
『やだ、忘れちゃったの?今日は――』
「………ゆめ、」
そっと瞼を開く。柔らかい光が射し込んできた。
もそりと体を起こす。まだ眠たい。正直面倒だけど、まだ仕事が残ってる。
「ふぁぁ…ねむ…」
うつらうつらと微睡む。着替えるのも億劫だ。今日はいつにも増して、何もかもが億劫。それこそ、呼吸すら面倒だと感じるほどに。
(――なつかしい、な、)
母さんと父さんの声。久しぶりに聞いた。滅多に出てこないのに、年に一度、毎年同じ夢を見る。
「……誕生日、か…」
口にするのも面倒。今日は駄目な日だから、と言い訳して、ぼふんとベッドに倒れこんで仰向けになった。
(誕生日…ね…)
昔は、何度も祝ってもらった。両親に、クラスメイトに、近所の人に。――そして、あの子にも。
今となっては、誰にも祝ってはもらえないけれど。
そんな誕生日を、何度繰り返しただろう。……何度、あの子の面影を探しただろう。
もう、忘れてしまった。数えることすら億劫だから。思い返すことさえ面倒だから。
生まれた日。僕が僕として生まれた日。それが今日。――自らその命を捨てたくせに、未練がましく覚えてるなんて笑える。
(莫迦…みたい…)
莫迦みたいだ。あの頃を捨てきれなくて、消し去れなくて、忘れ去れなくて。
莫迦みたいに、あの頃の想い出に縋り付いてる。
「もう…、戻れないのに…」
自嘲。今更後悔したって遅いのに。
わかってるんだ。探すだけ無駄なんだって。きっとあの子はドールになってる。でも、あの頃とは似ても似つかないんでしょう?
(探しようがない…)
諦めた方が楽なのに、諦めきれない。ほんとに、莫迦みたい。
諦念に促されるまま、終わってしまえばいいと囁く声がする。どうせ見つからないのだから、やめてしまえ、と。
「……ぅるさい、」
煩い。僕は、まだ。
終わる気はない。
そんな、願い事。誕生日だから許してよ、神様。なんて、信じる神も居ないのに、赦しを請う。
ふぁ、と欠伸を一つ。ゆるりと瞼を下ろす。眠ったらあの子に逢えないかな。夢の中でもいいから。
くすくす、君の笑う声が、聴こえた気がした。
Happy birthday、僕。